皮肉な犯罪ノンフィクションドラマの最高傑作

ロシア(旧ソ連)の地は広大である。広大ゆえに、日本よりもはるかに犯罪捜査は難しく、それが大量殺人鬼を生みだす原因の1つになっているのは間違いない。そうでなければ、1人の人間が少年や少女など52人もの人間を殺害するなど、できるはずがないだろう。そう、これはロシアの連続殺人鬼アンドレイ・チカチーロの話である。

チカチーロが初めて殺人を犯したのは、1978年のことである。9歳の少女を襲い、殺害したのだ。目的は強姦だったが、チカチーロは性的不能に近い状態であったため、勃起しなかった。その代償として少女の身体を切り刻み、血を浴びることで性的興奮を満たしたのだ。


仕事の最中、少女や少年に声をかけて獲物を探すチカチーロ。この映画を観たあと子供をもつ親なら、「絶対に知らないおじさんについていってはダメよ、絶対にね!!」と言わずにはおれないはずだ

この最初の殺人のあと、チカチーロは少女42人、少年11人を殺害。いずれの遺体にもナイフによるめった刺しのあとがあり、なかには性器を切り取られたり、食いちぎられたものもあったという。

これだけの大量殺人を犯せたのは、転職により職場が変わることが多く、また出張の多い仕事に就いたこともあり、被害が広範囲に渡ったことにもよる。しかしそれでも、これだけの大量殺人、それも異常殺人である。捜査にあたった民警の執念はすさまじく、ある日、1人の私服刑事がバス停で少女や少年に話しかけているチカチーロの不審な行動に目をとめる。この私服刑事の名はアレクサンドル・ザナソフスキー少佐といい、のちにロバート カレンが書いた小説『子供たちは森に消えた』(早川書房)の主人公のモデル(ヴィクトル・ブラコフ中佐)となった刑事である。


被害者の遺体を前に、犯人への憎しみを燃やすブラコフ刑事。この刑事役をつとめているのはスティーブン・レイという俳優で、地味ながらも実にいい演技をしている


そしてブラコフ刑事は、とあるバス停で、少女や少年に声をかける怪しげな中年の男に目をとめる。この男こそが連続殺人鬼のチカチーロであり、彼の執念が実った、ある意味、感動的なシーンの1つである。ただしこの逮捕のあと、決定的な証拠がでずに、チカチーロは社会に戻され、そしてまた殺人を繰り返していく

この事件をモチーフにした小説には、トム・ロブ スミスの『チャイルド44』があるが、そのもとになったのは『子供たちは森に消えた』であり、そもそもロバート カレン自体が『ニューズ・ウィーク』のジャーナリストとして当時のソ連に10年にも渡って滞在したという経歴のもち主だから、格が違う。それは、1995年にアメリカでテレビ放送された『ロシア52人虐殺犯/チカチーロ』を観ればわかるかもしれない。

 

最初にお断りしておくが、私は『チャイルド44』を映画化した『チャイルド44 森に消えた子供たち』をまだ観ていない。だから後日、意見が変わるかもしれないが、『ロシア52人虐殺犯/チカチーロ』は当時のソ連の内情を踏まえつつ、異常殺人鬼を追い続ける刑事の執念が実に見事に描かれており、最高レベルのノンフィクションドラマに仕上がっている。事実、このドラマはその年のエミー賞ゴールデングローブ賞テレビ映画部門にノミネートされ、受賞こそ惜しくも逃すも、刑事の上司役を務めた俳優がテレビ助演男優賞を受賞するなど、高く評価された。そしてその翌年には、日本で劇場公開までされている。

実際、Amazonのレビューで、廃版となった『ロシア52人虐殺犯/チカチーロ』のDVDの評価が5件すべて★5となっており、私も★5以外つける気がない。ネタバレになるが、最後、チカチーロを逮捕した刑事たちを群衆が拍手で称えるシーンは胸にジーンとこみあげてくるものがあり、これだけの作品が廃版というのは、本当に残念なことだと思う。しかし、異常殺人鬼の事件がもととなってこれだけの作品を生みだしたというのは、なんとも皮肉なことだ。


その後、5年あまりが経ってから、チカチーロは再逮捕される。それまでの経緯、民警察とKGBのジレンマなどがドラマで実によく描かれており、この再逮捕の瞬間は感動すら覚えるほどだ

チカチーロが少女を殺害するシーンは一応あり、同じくらいの子供をもつ親は目をそむけてしまうだろうが、それ以上の過激なシーンはなく、また時間も短いため、なんとか耐えられるはずだ。もしDVDが再版されたら、ぜひ一度観てほしいと思う。レイプ好きがこの手の映画を勧めることに違和感を感じる人もいるかもしれないが、私はチカチーロと違って殺人鬼でもレイプ犯ではないので、犯罪を扱った映画やドラマは好んで観る。そして感動したら人に勧める。それだけのことだ。

なお『ロシア52人虐殺犯/チカチーロ』の原題は『Citizen X』で、YouTubeで検索すると字幕はないが、オリジナルのフルバージョンがいくつかある。映画自体はアメリカで作られているので、音声はロシア語ではなく、英語である。英語がわかる方は、ぜひ一度観ていただき、『チャイルド44 森に消えた子供たち』と比較してみるといいだろう。

内戦の集団レイプ殺害事件を生々しく再現か!?

前回、南スーダンで現実に起こっているNGOの女性職員に対する集団レイプや、数百人が収容されているというレイプキャンプについて書いた。しかし直に映像を見たわけではないからイマイチ実感が沸かない、という方もいるだろう。そんな方にぜひとも見ていただきたい映画がある。それが名匠オリバー・ストーン監督が1986年に制作した映画『サルバドル/遥かなる日々(以下、サルバドル)』だ。

サルバドルは、1980年から1992年まで続いたエルサルバドル内戦を取材したジャーナリスト、リチャード・ボイル氏の体験小説をもとにした映画である。エルサルバドルは1969年、ホンジュラスとの間で起きた「サッカー戦争(サッカーワールドカップでの判定をめぐる争い)」以降、治安が悪化し続け、ゲリラ組織による活動が活発化。そして1980年、その後10万人近い死者をだす最悪の内戦へと突入した。ただしこの内戦では、国連および国連平和維持活動(PKO)がうまく機能し、内戦終結後から現在まで目立った争いは起きておらず、選挙も実施されている。外務省の海外安全ホームページでも、エルサルバドルの一部地域がレベル2の「不要不急の渡航中止状態」とはなっているが、南スーダンの全土レベル4「退避勧告」よりはるかにマシな状態だ。一応、国は平穏な状態を取り戻した、と言っていい。

サルバドルの話に戻るが、リチャード・ボイル氏の役を演じているのが、B級ホラーの名作『ビデオドローム』で主役を演じたジェームズ・ウッズ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』や『カリブの熱い夜』などにも主演しているので、ご存じの方は多いだろう。彼は当初、適当に仕事をしていたが、知りあいの民間人ボランティアの女性たちがレイプされたうえに殺害され、さらに愛人の弟も殺されるにおよんで、死に物狂いで真実を追い続けるようになる。

リチャード・ボイル氏の役を演じたジェームズ・ウッズ。悲惨な紛争を体験していくに従い、ジャーナリストとしての使命感が目覚めていく姿を見事に演じている

小説は日本語化されていないので、リチャード・ボイル氏の実体験がどういうものであったかはわからないが、映画『プラトーン』を制作したオリバー・ストーン監督が、史実をもとに忠実に再現したとうたっている以上、おそらくは実際にあった話なのだろう。ただ、民間人ボランティアの女性スタッフ4人が車で帰宅している最中に襲われ、全員がレイプされたうえに殺害されたという事実は、ネットでは確認することができなかった。


ボランティア活動を終えて車で帰宅している途中、政府軍の兵士に襲われ、それぞれが引き離されたあと、レイプされる。ただしこのシーンが実際に遭ったかものかどうかは、この記事を書いている時点では確認できなかった

ちなみに主人公の知りあいの民間人ボランティアスタッフ、キャシーを演じているのは、『栄光のエンブレム』でジェシーを演じて人気を得たあのシンシア・ギブである。どちらも23歳のときに公開された作品であり、彼女がいちばん輝いていたころにヒロインとレイプされ殺害される両極端な役を演じたことになる。レイプされたあと、銃を突きつけられて自分の運命を悟り、クリスチャンとして十字を切るシーンは、見ていて本当に痛々しい。


栄光のエンブレムでヒロイン役を演じたシンシア・ギブ。この映画ではアメリカのいかにもという若い少女役を演じており、サルバドルとは対照的な役となっている


銃を突きつけられ、自分の運命を悟ったキャシーがクリスチャンとして十字を切る姿は、見ていて痛々しいものがある

サルバドルは興行収入こそ振るわなかったが、南スーダンの内戦による被害がどういうものかを理解するうえで、ぜひ見ていただきたい作品だ。プラトーンと同じ年に公開された映画という意味でも、2つを対比させて観ると、戦争の生々しさがよりわかるだろう。

実話にもとづいた村の女性たちへのすさまじいレイプ

すさまじいほどのレイプシーンがあるのに、あまり話題にならなかった映画がある。それが17世紀、ブルガリアの地で行われたオスマントルコ帝国軍による虐殺・略奪・レイプの実話をもとに描いたスペクタル映画『略奪の大地』だ。現代であっても戦争で多くの女性や少女がレイプされており、イスラム国による性奴隷の実態に心を痛めた方は多いことだろう。内戦が続くアフリカの地での惨状はこれ以上のものがあり、平和に慣れた日本人には想像がつかないレベルに違いない。しかしこの映画を観れば、少しは想像できるのではないだろうか。

『略奪の大地』は、アントン・ドンチェフというブルガリア人の作家が書いた『別れの時』を映画化したものだ。オスマントルコ帝国軍に侵入され、村人たちはイスラム教への改宗を迫られるも、一致団結してそれを拒否。そのため見せしめとして女たちは兵士たちに犯されボロボロにされるのだ。このレイプシーンがすさまじいのは、エキストラとして参加した数十人の女性が体当たりで演技していることである(裸を見せる女性は多くはないが)。パッケージに書かれた「エキストラで出演した村人たちは300年前に起こった主人公たちの子孫だとも言われている」をそのまま信じることはできないが、参加し、レイプシーンを演じた女性のなかには、1人や2人、本当の子孫がいてもおかしくないだろう。

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写真■これから結婚式を迎えようとする新婦を捕まえ、無理やりレイプ。映画は横長のスコープサイズで撮られているようで、DVDでは字幕が画面の下にでていた

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写真■月明りと松明の火のもとで兵士にレイプされる村の女性。村のいたるところで兵士たちによる無慈悲なレイプが繰り返される

兵士による村の女性へのレイプは暗い夜に行われたため、月明りと松明の火のもとでのレイプシーンとなっている。このため映像的には見づらいが、それがゆえに迫力もって伝わってくる。ちなみに私は原作を読んだことはないが、この生々しいレイプシーンは原作にはないらしい。村人への虐殺・略奪・レイプは実際にあったとしても、それが本当なら映画をヒットさせるためにレイプシーンをあえてつけ加えたことになる。これもまた、なかなかエグイ話だ。この映画を製作したスタイコフ監督はブルガリアの国営映画会社総裁を兼任した大物であったようで、そのためこれだけの生々しいレイプシーンを加えても許されたのだろう。

なお、日本語版のDVDはすでに廃盤になっているらしく、新品のDVDを入手するのは不可能。中古でも結構な高額。このためどうしても観たければ、日本語字幕はないが、原題の『TIME OF VIOLENCE / Vreme razdelno』で検索して動画を探す手もある(原題の検索はどちらか片方だけでもヒットするはず)。

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略奪の大地

発売元:エプコット
興奮度:★★★★ 入手難易度:★(中古DVDがそれなりに高額)

 


動画■レイプシーンは、1の後半と、2の前半にある。村の女性たちのレイプシーンは2の前半のほう